2010年10月27日 13:58
当メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科 院長 多田智裕 および 武神健之医師、北山大祐医師らが執筆した医師向けの大腸内視鏡検査の技術書「患者に優しい"無痛"大腸内視鏡挿入法」が10月10日中外医学社より出版されました。
国内最大、2万名を超える医師が参加する消化器病学会 JDDW横浜2010では、初回出品分を全て完売したのみならず、出版社版元よりの緊急追加納入分もほぼ全て完売するなど、これまでにない記録的な販売部数を達成している事をここに報告いたします。
行列のできる患者に優しい"無痛"大腸内視鏡挿入法
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ただともひろ胃腸科肛門科 では、空気を入れず,腸管をループさせず直線的に挿入する「無送気軸保持短縮法」を施行しています。この挿入法は、従来の新谷弘実先生のright turn shorteningテクニックや工藤進英先生の軸保持短縮法とは全く異なる新しい挿入法です。
検査を受ける側からすると、従来の検査法と異なり、腸管をループさせないため、"大腸内視鏡検査に伴う痛み"が生じない上に、空気を挿入しないので"おなかの張る感じ"もない事から、"無痛"大腸内視鏡検査とも呼ばれており、高い評価を頂いておりました。
これまでは大腸内視鏡を行なう医師の中でもごく限られたエキスパートしか行なう事のできなかった秘伝の奥義でもある"無痛"大腸内視鏡検査"が、初めて書籍として出版された事が専門医の間で高く評価され、記録的な売り上げにつながったのではないかと考えております。
大腸内視鏡検査を行う著名な先生方の絶賛の声も数多く寄せられているのですが、ここでは、日本の大腸がん治療の最高権威者でもある 癌研有明病院メディカルディレクター(名誉院長)武藤徹一郎先生と、大腸肛門病診療においては国際的な権威である 辻仲病院柏の葉院長 辻仲康伸先生の推薦文を紹介したいと思います。
日本にもこの様な臨床家がついに現れたことへ大きな賞賛を贈る
筆者が大腸内視鏡に初めて触れたのは 1970 年,場所はロンドンの St. Mark 病院であった.挿入法などは存在せず,眼前の孔に向って押しの一点張り.これは人間の本能として当然の行動であろう.最初からセデーションを使っていたので患者は苦しまなかったが,セルシンを合計120 mg も静注した結果,翌日まで眠いという患者がいたり,ループ形成防止の目的で鉗子孔に挿入したピアノ線がスコープの外に突き抜けたり(幸い腸壁には達しなかった!)などなどの珍事を経験した.当時ニューヨーク Mt. Sinai 病院の Dr. Shinya が CF の名手として世界的に有名であったので,帰国時にわざわざ CF を見学するために立ち寄った.わずか 2〜3 例だったが目から鱗とはあのことだろう.スコープのひねりと引き戻し(押してダメなら引いてみな)という,基本的な技術を初めて目にした時の衝撃は今でも憶えている.一緒に CF を行っていた Dr. Williams に直ちに手紙で報せたものだ.
帰国してからはスネアーの材料を片手に(当時はスネアーは市販されていなかった)ポリペクトミーに熱中した.Dr. Shinya の所に留学してその技法を伝える若者も現れ,学会では盲腸への到達率,到達時間が秒単位で競われた時代であった.ところが,今や CF はルーチンの検査法として定着し,大腸癌死亡数が男女ともに増加の一途をたどっている現状からみても,CFの重要性は増す一方である.しかし,その技術的困難さと患者の苦痛(被験者のネガティブキャンペーンの影響は大きい!)のために,普及には様々な問題が残っていることも事実である.
CF挿入法の技術書は多々あるがいずれも超有名人によるもので,立派な教科書であるが必ずしも優れた技術書とはいい難かった.本書はそれを見事に解決したユニークな本である.5人の達人がそれぞれの技(ワザ)と工夫を,図解あるいは写真によってヴィジュアル化し,読者に分りやすく伝えることに成功しており,従来にない新しい試みが新鮮である.失礼ながら学会ではあまり名の知られていない 5人のエキスパートが,別々に各章を担当して各人の技を示しているのが,本書の最大の特徴であり優れている所である.現場で活躍している人の話は説得力に富んでいてためになる.修業中の若い医師の体験記もユニークで面白い.空気を入れずたわませずに直線的に挿入する(無送気軸保持挿入法),という大目標を達成する為の工夫が少しずつ異なる所も興味深く,読者にとっては大変ためになるに違いない.CFの世界からすでに遠のいて久しい筆者にとっても,図を眺めて"ナルホド!"とうならせる内容が少なくない.
ちなみに本書の中の 3 名(大西,武神,多田)が東大病院大腸肛門外科の出身であることに驚かされた.筆者の退官後に大腸肛門外科に加わった若者達がこの様に成長し,市井の臨床家としてその成果を世に問うとは何と素晴らしいことだろうか.大学病院や大病院の医師ではなく,開業医達が本書をまとめたその心意気に敬意を表したい.多くの市井の医師達が本書の執筆者達を手本にして,その技術を習得することが大腸癌の早期発見に大きな役割を果たすに違いない.少数の名人によってではなく,多数の一定レベル以上の技術によって,より多くの人々が恩恵を受けることが医療として意味があるのだと思う.日本にもこの様な臨床家がついに現れたことへの大きな賞賛と共に,本書をすべての若い大腸内視鏡医に推薦したい.
2010 年 9 月
癌研有明病院メディカルディレクター
武藤徹一郎
世界に誇れる技術のエッセンス
今回,辻仲病院の誇る内視鏡の名手たちが,特に大腸内視鏡をいかに無痛で盲腸まで到達させるか,それぞれの鍛錬を重ねた技術を論文として解説することができたのは極めて意義深い.現在は既に辻仲病院から独立しクリニックを開業している医師もいるが,すべては辻仲病院で開発され,進化した,より安全で苦痛のない大腸内視鏡挿入法を学んだ医師たちである.これらの医師は例えば世界選手権がもし開かれたとしたら,日本代表に選ばれる可能性のある医師たちであり,その技術は文字通り世界の最先端を行くものである.
そもそも大腸内視鏡は苦痛であるとの評判が古くからあり,20年前には大腸内視鏡を盲腸に挿入できる医師も少なかった.X 線透視下に内視鏡の位置を確認しながら腹部圧迫により押し込む方法が堂々と主流を形成していた.やがて,米国で学んだ医師が帰国し,一人法として左側臥位で挿入する方法が広められていった.その方法は当時としては革新的であり,その後の挿入技術の発展に繋がっていった.
無痛,安全,信頼できる治療,診察能力,これらは日本の内視鏡医が世界に誇れるものである.辻仲病院で研鑚を積んだ医師たちがそのエッセンスを本としてまとめられたことの意義は極めて大きい.日本の消化器内視鏡医のみならず,世界の医師にも伝えたい一冊である.
最後に今や大腸内視鏡はどの消化器医にも必須の検査である.これを行うにあたって本書が極めて役立つものであることを確信する.またこれらを書した著者たちに大いなる敬意を払うものであると同時に心から感謝を申し上げる.
2010 年 9 月
辻仲病院柏の葉院長
辻仲康伸